秋の訪れとともに、静かな湿地や渓流沿いを華やかに彩る花があります。
まるで宙に浮かぶ帆掛け船のような、ユニークな形の花を咲かせる「ツリフネソウ」。
赤紫色の鮮やかな花色が目を引くこの植物は、その名の通り、花が帆掛け船を吊り下げたような姿をしていることから名付けられました。
近づいてよく観察してみると、花びらの繊細な模様や、蜜を求めて訪れる昆虫たちの姿に心を奪われることでしょう。
今回は、そんなユニークで美しいツリフネソウの魅力に迫ります。
基本情報
ツリフネソウ(釣舟草)
- 分類:ツリフネソウ科、ツリフネソウ属(インパチェンス属)
- 学名:Impatiens textorii Miq.
- 別名:ムラサキツリフネ(紫釣舟)
花の特徴
ツリフネソウの花は、約3cmほどの大きさで、赤紫色で特徴的な形をしています。
花弁は3枚あり、上部の2枚は小さく、下部の1枚は大きく袋状になっています。
この袋状の部分の先端は、くるりと渦巻き状に巻いているのが特徴です。
葉の特徴
葉は長さ5〜10cmほどの楕円形で、縁にはギザギザがあります。
互い違いに茎に付き、表面は少しザラザラとした触り心地です。
実の特徴
ツリフネソウの実は、熟すと触れるだけで簡単に弾け、種子を遠くまで飛ばします。
その飛距離は、なんと数メートルにも及ぶことも。
開花時期
8月〜10月頃
分布
日本全国の山地や湿った場所に分布しています。
環境
ツリフネソウは、日当たりの良い湿地や渓流沿いなどの、水分が豊富な場所を好みます。
ツリフネソウの花言葉が意味するものとは?
ツリフネソウの花言葉は、「安楽」「心を休める」「私に触れないで」などがあります。
そのユニークな花の形から、「私に触れないで」という花言葉が付けられたという説も。
また、「安楽」や「心を休める」といった花言葉は、静かな湿地でひっそりと咲く姿に由来しているのかもしれません。
こんな感じで、花ごと落ちてしまうようなので、触れないでおきましょう。
【圧巻の光景】ツリフネソウの群生地はどこ?
ツリフネソウは、湿地や渓流沿いの、日当たりの良い場所を好みます。
そのため、そのような環境が保たれた場所では、多くのツリフネソウが群生している姿を見ることができます。
例えば、山間部にある湿原や、清流が流れる渓谷などが挙げられます。
一面に広がるツリフネソウの群生は、まさに圧巻の一言。
赤紫色の花々が咲き乱れる風景は、訪れる人々に感動を与えてくれます。
正に水辺です。
日陰になる、薄暗いところに居る感じがします。
今回訪れたところは、岐阜県加茂郡川辺町上川辺
かしおゴルフ場から地蔵峠へ向かう途中の田んぼの用水路沿いです。
綺麗に草刈がされていますが、ムラサキツリフネなどの草花は残して下さっています。
←左は、KYBのテストコースです。
こんな感じで、群生しています。
割と、同じ方向(道路側)を向いて咲いています。
そんな特性があるのでしょうか?
ツリフネソウの驚きの種子散布方法
ツリフネソウの最も興味深い特徴の一つは、その独特な種子散布方法です。
この植物の名前の由来にもなっている「釣り舟」のような形状の実は、成熟すると驚くべき能力を発揮します。
ツリフネソウの実は、触れるとはじける特殊な構造を持っています。
この仕組みは、種子をより広い範囲に効果的に散布するための進化の結果です。
成熟した実に軽く触れただけで、実が破裂し、中の種子が勢いよく飛び散ります。
最大で5メートルも飛ぶことがあります。
この独特な種子散布方法により、ツリフネソウは効率的に子孫を残し、新たな場所に広がることができるのです。
【実は色々!】ツリフネソウの仲間たちをご紹介
ツリフネソウ属には、様々な種類が存在します。
その中でも、特に有名なのが「キツリフネ」です。
キツリフネは、その名の通り黄色い花を咲かせるのが特徴です。
また、ツリフネソウよりも標高の高い場所に分布している傾向があります。
開花は6~9月と、ムラサキツリフネよりも少し早いです。
花の後ろ側にある「距」は、くるん?と巻かず、曲がって垂れ下がる形です。
花は、葉っぱの下に咲くところも、ムラサキツリフネとの違いです。
ムラサキツリフネでも、今回観たものは、花軸の下部にチクチクの毛がありませんでした。
家に戻り、写真を確認していて気が付きました。
花軸の下部に毛のないものを、ナメラツリフネソウ(滑ら釣舟草)、別名:トガクシツリフネ
ともいうようです。
こちらは、2021/9/15に訪れた、岐阜県本巣市の根尾地域に位置する廃村集落
越波集落(おっぱ しゅうらく)での写真です。
キツリフネ、とムラサキツリフネが一緒に咲いていました。
越波集落のムラサキツリフネには、花軸の下部にチクチクの毛があるのが確認できます。
折越峠(標高755m)を越えた谷間の集落、本巣郡の最北部なので結構標高は高い位置です。
ムラサキツリフネは、標高の低い里の田んぼ沿いの水辺で見られますが、希少になってきました。
その他にも、葉っぱの下に花が付く「ハガクレツリフネ」
ハガクリツリフネの変種で、ハガクレツリフネと同じように花が葉の下に隠れるようにつく「エンシュウツリフネ」 花が小形で、葉の幅が狭い。
など、様々な種類のツリフネソウが存在します。
それぞれの違いを見比べてみるのも面白いですね。
小さいツリフネソウは、距は巻かない?
岐阜県山県市の神崎川沿いには、普段見慣れているムラサキツリフネより小さい花のタイプも混じって咲いています。
咲き始めの小さい花なのでしょうか?
調べてみますと、
小型のツリフネソウには、特に距(きょ)と呼ばれる部分が巻かない品種が存在します。
とありましたが、
成長が悪く、小さい花に距の先が巻き込まないものも見られる。(三河の植物観察さんを参照)
詳細は調査中です。
2024/10/13 神崎川にて
葉っぱは大きいです。
大きいツリフネソウは、距が巻いていました。
花軸の下部にチクチクの毛が有るのを確認しました。
下流でも見られますが、神崎川の結構上流の場所まで行きました。「ごろごろの滝」がある辺りです。
10月初旬でも、寒いので装備は万全にして お出かけください。
まとめ
今回は、秋の湿地を彩る可憐な花、ツリフネソウの魅力をご紹介しました。
ユニークな花の形、鮮やかな花の色、そして触れるだけで爆裂する独特な実を持つツリフネソウ。
もし機会があれば、ぜひ実際に観察してみてください。
きっと、その魅力に心を奪われることでしょう。